HiraiToshiyukiのブログ

映画と読書

流浪の月

 切ない、苦しい、それがずっと続いたあとで小さな希望が見えた。そんな小説でした。

 両親がいなくなり、親戚の家に居候することになった小学生の更紗。そこに毎夜忍び込んでくるのは中学生のいとこ。「やっかいもののくせに。だまってじっとしていろ!」誰にも言えない苦しみ、帰りたくないけれど帰るところがその地獄しかない。

 そんな状況から救い出してくれたのは大学生の男の子、文だった。

 文と暮らす日々は小さい頃の両親との自由で幸せな日々を思い出させ。何の心配もなく眠れる日々でした。

 しかし世間は放っておかない。文は幼児誘拐犯として逮捕され、更紗は可哀そうな目に遭った被害者となった。

 事実と真実は違う。世間が知っている事実は更紗は幼児期に人に言えないようなひどい目にあった被害者。でも真実は違う。更紗は文には何もされていない。世間は更紗に表面的な理解と同情と親切、思いやりを投げかけてくる。可哀そうな幼児性愛者の被害者の役割を押し付けてくる。

 真実は違うんだ。更紗は文との暮らしが忘れられない、自分が自分でいられる暮らしが。そして罪を償っても世間の非難の目からは逃れられない文は更紗と再会する。2人にしか決して分からない真実。

 真実をしらないままで差し伸べる見当違いの親切や思いやりや善意がいかに相手をしばりつけてしまうのか。考えさせられる小説でした。